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銘菓の装い

餅で栄養、小豆で厄除け

 赤ちゃんが初めて氏神様へお参りすることを、お宮参り(初宮参り)といいます。いまは著名な神社に参拝する家族が多いようですが、本来は生まれた土地の氏神様の氏子になる儀式でした。日取りは生後30日頃が多いものの、福井県敦賀市周辺のように、生後100日目に行うところもあります。
 お宮参りでは、赤ちゃんがこの先、災厄を被ることのないように、ひたいに「大」「小」「犬」といった文字を描くなど、魔除けをする風習がいろいろあります。
 また、大阪などでは、親戚や近所の人がお金の入った祝儀袋を水引でくくって赤ちゃんの祝着に結ぶ「紐銭(ひもせん)」という習わしが行われています。これは、一生お金に困らないことを願うものとか。金沢には昭和初期まで、親類縁者100人から着物のはぎれをもらって産着を縫う「百徳着物」という習俗もありましたが、いずれも多くの人からパワーをもらうことを意味しています。赤ちゃんは、神様の加護とともに周囲の人からさまざまな助けを受けて育っていくのです。
 お宮参りの日には、出産祝いを贈ってくれた親戚や知人に、内祝いとしてお返しをします。内祝いには、赤飯や紅白饅頭、鳥の子餅(鶴の子餅)など、ハレの日にふさわしい色や意匠のお菓子が使われてきました。赤は邪悪を払う色、白は清浄を象徴する色。そして、楕円形に作る鳥の子餅の形は、誕生と成長を象徴する卵に似せたものです。
 お宮参りは、赤ちゃんの健やかな成長を祈る重要な儀礼として、今も大切に伝えられています。



illustration by 小幡彩貴

板橋春夫(いたばし はるお)

民俗学者。日本工業大学建築学部教授。博士(文学)、博士(歴史民俗資料学)。「いのち」をキーワードに誕生と死について調査研究を進めている。