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銘菓の装い

初誕生の一升餅、七五三の千歳飴


 人の一生には、さまざまな節目があります。和菓子は、誕生、七五三、成人式、結婚式、長寿祝いなどの祝い事と共にあり、葬儀や法要などの不祝儀にも用いられています。
 1月の祝日「成人の日」を中心に開催される成人式の式典では、礼装した若者たちの晴々しい笑顔が見られます。成人の内祝いには、お世話になった人たちへの感謝を込めた紅白饅頭など縁起の良い意匠の和菓子が使われます。
 そして人生の大きな節目と言えば、結婚式でしょうか。多くの人に祝福され、新郎新婦が新しい人生を歩み出す儀式ですが、双方の親族などが立ち会って縁を結ぶ行事でもあります。吉祥色の餡を包んだ小饅頭を入れた大きな饅頭「蓬莱山(蓬が嶋)」や、鶴亀、松竹梅などの菓子が慶事を寿ぎます。
 一方、親しい人と現世での縁を切る人生の節目もあります。葬儀で使われるのは黄白や青白の饅頭。シノブヒバの焼き印を押した「しのぶ饅頭」を使う地方もあります。こうした不祝儀の饅頭は大きいのが特徴で、分け合っていただきます。悲しみを分かち合い、故人が結んでくれた縁を共に感謝する―饅頭を分け合う意味は、そこにあるのです。
 万物は無数のめぐりあいや結びつきによって形成されています。私たちは縁で結ばれ、時に縁が離れたりしながら生きています。このような縁によって万物が生じ起こることを「縁起」といいます。
 人生は、縁起の連続といえます。私たちの人生は、誰かの人生にしっかりとつながっています。その連鎖が、人生を豊かに、素敵にしているのです。そうした人生の節目に、いつも和菓子が寄り添っています。



illustration by 小幡彩貴

板橋春夫(いたばし はるお)

民俗学者。日本工業大学建築学部教授、慶應義塾大学大学院非常勤講師。博士(文学)、博士(歴史民俗資料学)。「いのち」をキーワードに誕生と死について調査研究を進めている。