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銘菓の装い

ネコは人とは味覚がちがう


 人はさまざまな味を楽しむ。三食のほかに、やれ口さみしいとか言っておやつなど間食をする。果物、煎餅、チョコレートなどだが、あられとお茶は私なんかの定番だ。
 子どもの頃、セロファン袋を破ってあられを一つ口に入れようとしたとき、その音を聞きつけて飼っていたネコのミケが音もなく近寄ってきた。鼻を突き出すから、欲しいのかなと一つつまんで鼻に近づけると、プイッと横を向き、セロファン袋の匂いを嗅ぐと行ってしまった。
 今思えばネコのこの行動は「確認」しに来たのである。パリパリとセロファン袋を破く音を聞いて、もしかすると事件かなと、自分の縄張り内での出来事を調べに来たのだ。ネコは縄張りの中がいつも通りで、平穏なことを一番好むからである。何か異常がないかを、鼻を突き出して目と匂いで確認した。別にあられを食べたいわけではなかった。
 ネコは、残念ながら人と味覚がちがう。人はふつう甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五味を感じるが、ネコはこれを感じない、とされる。ならばどんな味を感じているのか……。こればかりはネコに聞いてみなければ正確なところは分からないのだが、古くから動物学者がいろいろと調べてきた。その結果、今ではネコは酸っぱさ、苦さ、塩辛さを、この順で強く感じることが分かっている。人と大きく違うのは舌に「甘味」に反応する味蕾がないことと、美味しい肉(タンパク質)、つまり良質のアミノ酸を感じる能力があることだ。想像するにネコは、人が甘いお菓子を食べたときの美味しさを、良質のアミノ酸を食べた時に感じているのかもしれない。




illustration by 小幡彩貴

今泉忠明(いまいずみ ただあき)

動物学者。長年、動物の調査研究に取り組み、伊豆高原ねこの博物館館長、日本動物科学研究所所長などを歴任。2020年には子どもたちのためのフィールドワークなどを催す「けもの塾」を設立。著書に『誰も知らない動物の見かた~動物行動学入門』(ナツメ社)、『巣の大研究』(PHP 研究所)、監修書に「ざんねんないきもの事典」(高橋書店)ほか多数。