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四季のある地域に棲む動物は、ふつう春に子を産む。特に、大形野生動物はそうである。熱帯地方では決まった繁殖期はなく、いつでも子が見られるが、これはいつ生まれても暖かく、食べ物も豊富で子が育つからだろう。また、温帯では暖かくなる春に生まれた子の生存率が高いことから、長い年月の間に、ほとんどの動物が春に子を産むようになってきたに違いない。例外もいるが、その代表がジャイアントパンダである。
パンダの多くは、6月に超未熟な子を産む。子の体重は、およそ100g。親の体重の900分の1しかない(ちなみに人は約20分の1)。歩き始めて、動く縫いぐるみのように可愛くなるのが3か月後。6月生まれならば9月で、亜高山帯ではもう秋の紅葉が始まるほど冷えてくる。一人前の子パンダになる頃には冬がやってきて、あたりは雪で覆われてしまう。

これではちょっと生まれるのが遅すぎ、と思われるかもしれないが、パンダが棲むタケの林は密生していて、天敵のヒョウやドール(アカオオカミ)もなかなか入ってこない。
さらに、雪が降ると上の葉の部分に雪が積もるから、葉の下に空洞ができ、パンダはその空洞部分で冬を過ごす。雪はひどい寒さを防いでくれるし、食べ物の90%以上を占めるタケはいくらでもあるのだから快適な環境である。子パンダも寒ければ母親に抱いてもらえるし、まだ乳を飲んでいるので空腹にはならない。そして、生後6か月くらいからタケを少しずつ食べ始め、1歳になる頃、完全に乳離れする。うまくしたもので、その頃、山は子パンダでも食べやすいタケノコのシーズンである。
動物園でパンダの親子を眺めていると、とても野生動物と思えないほど呑気そうに暮らしている。だが、実はパンダは過酷な環境によく適応した動物なのである。

illustration by 小幡彩貴
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