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銘菓の装い

舌ざわりの決め手は餡粒子


小豆

 和菓子に欠かせない豆、小豆。この作物名は『古事記』や『日本書紀』といった古い書物にも記されており、穀物起源神話にその名が登場するなじみ深い豆だ。

 小豆は日本を始め、東アジアの国々では餡や粥として食されているが、日常の食生活で豆類を多く取り入れている欧米諸国では食経験が乏しい。オーストラリアの大学で小豆の研究に携わっていた25年前、彼らオージーに餡を食べてもらったところ、大半が「甘すぎて食べられない!」と言うのだ。あの甘すぎるチョコレートケーキを食後に平気で平らげるオージーが、である。

 その理由を考えてみると、彼らが慣れ親しんでいる甘さは油脂系の甘さであって、でんぷん系の甘さにはなじみが薄いのである。

 さらに、餡粒子の大きさは一〇〇ミクロン程度であるのに対し、乳などに含まれる脂肪球は一〇ミクロン前後と小さいため、舌ざわりがなめらかである。乳製品や肉類などの動物性食品を長い歴史の中で食べ続けてきた欧米人と、穀物主体の日本人とでは、甘さに対する味覚に関しても大きな違いがあるようだ。

 小豆は「でんぷん質の豆類」に分類される豆で、調理・加工の過程で加熱されることにより、でんぷんは膨潤・糊化する。しかし、小豆では、熱しても細胞内にでんぷん粒が閉じ込められているため糊状にはならない。餡の本体である「餡粒子」は、この膨潤したでんぷんを含む細胞一つひとつが、ばらばらの状態になったものである。

 この餡粒子の大きさや性質が、舌ざわりに大きく関与し、粒径が大きいとざらつきを感じる。昔から、小さな小豆は漉し餡に、大納言は小倉餡に用いられてきたが、餡粒子の大きさから考えても、理にかなった使い方なのである。

 北海道では5月下旬、カッコウが鳴くと小豆の種まきが始まり、7月下旬にはかわいい黄色の花をつけ、9月下旬に収穫期を迎える。今年はどのような小豆に出会えるだろうか。

顕微鏡をのぞく人

illustration by 小幡彩貴

加藤 淳(かとう じゅん)

数多くの著書や各種メディアで「あずき博士」として知られる研究者。
北海道立総合研究機構(農業試験場)などを経て、現在は名寄市立大学副学長(栄養学科教授)。主な著書に『最強のあずき力』(KKロングセラーズ)、『あずき毒出しスープ』(河出書房新社)などがある。