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正月の朝には、子供たちと一緒に鰹節を削り、餅を焼いて雑煮を作ります。お正月は単にカレンダーが一巡しただけでなく、人生そのものが新たな始まりになるような、清々しい気持ちになるのが不思議です。
そのお正月にいただく料理が「おせち料理」です。もとは「節供料理」と呼ばれており、その語源をたどると「節会供御」に由来します。「節会」は祭りごとを、「供御」は召し上がるものを意味し、つまり「節供」という言葉自体が、もともと料理を表しているのです。
おせち料理も、家族構成や趣向、流通の変化に応じてその内容が変化してきました。現在ではさまざまな種類のおせちを楽しむことができますが、本来大切なのは、その料理に込められた願いです。代表的なものに、「三ツ肴」と呼ばれる「数の子」「黒豆」「ごまめ」があり、それぞれ子孫繁栄、健康、豊作の願いが込められています。また、おせちの特徴の一つとして、栗きんとんや伊達巻き、錦玉子など、砂糖や卵を使った「口取り」料理が多くあります。これらは「長崎もの」とも呼ばれ、当時、海外との唯一の接点であった出島のある長崎の卓袱料理の影響を受けています。
なかでも特に変わっているのが「伊達巻き」でしょうか。伊達巻きは、江戸期の料理本では「カスティラ焼き」や「カスティラ蒲鉾」と呼ばれ、室町時代にポルトガルから伝わった南蛮菓子カステラの生地に白身魚のすり身を加えて焼くという、日本ならではの発想が生かされています。この長崎から伝わった卓袱料理が江戸の文人墨客に愛され、やがておせち料理の一つとなりました。ちなみに、伊達巻きには、巻物が教養を表すことや、黄色が古来より邪気払いの色とされてきたことに由来した願いが込められています。
日本料理の特徴には、甘さの巧みな使い方がありますが、その砂糖の扱いは和菓子から学んだ部分が多くあります。菓子から料理へと広がったこの甘さの工夫に思いを寄せながら、おせち料理を味わってみると、また違った楽しみが感じられるのではないでしょうか。

illustration by 小幡彩貴
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