あじわいアーカイブ

旧「あじわい」サイトから、選りすぐりの記事をまとめてお読みいただけます。

「あじわい」トップに戻る
銘菓の装い

軽羮

透かしの紋、抜きの桜島

イメージ

 鹿児島といえば軽羮。土地を代表する名産菓子としては全国でも屈指の知名度をもつ。今回は、その軽羮の元祖明石屋の逸品を、しずしずといただいてみることにする。
軽羮が一棹入った箱は28cm×8cmとやや大ぶりで、品のよい包装紙で包んである。
この包み紙、利休鼠のような色とアイボリーの2色を四つに区切って市松に刷ったものだが、明石屋の名前と松の紋が4ヵ所、透かしで入っている。
透かしの文字や紋が、箱をつつんだ状態でもほのかに見えるところが、なんとも奥ゆかしい。人から贈られたりして、「あら、なんでしょう?」と思い、透かしが目に入ったところで、「あ、明石屋の……」と気がつくしかけである。
包装紙をはずして現れた箱には、蓋に商品名その他を印刷した凝った絵紙がかけられている。凝っているのは、印刷文字の背景をなす桜島の絵の見せ方。茶色のマット紙の全面に白い和紙のような材質の紙を貼り、桜島の絵だけを茶色の色抜きで出している。
箱の蓋そのものには、白地に藍を刷り、文字や絵柄を白抜きにしている。軽羮の文字と、裾に絣の柄を組み合わせた模様。蓋を開けると、透明な密封を透かして、量感もしっとりと白い軽羮が見える。
明石屋の初代八島六兵衛は播州明石の人。江戸で菓子屋をしていて、島津斉彬公の知遇を得たことから、鹿児島に移ったという。ときに安政元年。菓子舗明石屋を創業、薩摩の良質な山芋に着目し、これとうるち米を用いて、苦心の末に軽羮を創案した。現在の当主が六代目である。
軽羮の風味は、淡白にして美味。味わい深い名品である。

 文/大森 周
写真/太田耕治

明石屋

鹿児島市金生町4の16
TEL 099 ( 226 ) 0431