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銘菓の装い

マロングラッセ

お菓子の神戸シック

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 もう昔の話になるが、神戸の御影に洋画家・小磯良平先生を初めて訪ねたとき、無口な先生が、「神戸にはおいしいお菓子があるから、食べていきなさい」と言われた。
 そのあと、私は憧れの元町をぶらつき、神戸風月堂でウエハス2枚にはさまれたアイスクリームを食べたが、そのおいしかったことが忘れられない。当時は、「風月堂」と間口いっぱいに看板のある店だった。
 マロングラッセは、東京の米津風月堂がすでに明治25年頃から製造していたようだが、今では、神戸風月堂の製品がとりわけ知られている。本場フランスでも高級品とされているこのお菓子、神戸というシックな町の雰囲気に実によく似合う。神戸風月堂では、国産の銀寄栗という稀種だけを用い、イキな国際都市にふさわしい重厚なマロングラッセを作りあげてきた。
 明治30年、吉川市三が米津風月堂の暖簾分けを受けて独立した神戸風月堂は、オリジナルのゴーフルで名をあげ、めざましい発展を遂げてきている。
 神戸風月堂のマロングラッセの箱は、全体が品格のあるゴールド系。表面にMGの文字のカリグラフィがデザインされ、日本語の文字はどこにも入っていない。アクセントに、上蓋に明るいゴールドの帯がかけてある。「はい、パリのおみやげ」といっても、そのまま通用しそうだ。
 箱の蓋を開くと、仕込まれた容器にひとつずつ、やはりゴールドの包装に黒い帯のかかるマロングラッセが現れる。その宝石でも出てきそうな包みを解き、驚くのは栗の大きさ。おもむろに口に入れると、甘く、ねっとりと歯にからみつくようにおいしい。
 マロングラッセの「グラッセ」は「糖衣をからめる」という意味のようだが、それは仕上げのことで、糖蜜に長時間漬け込んで作る。
 しおりにも、「稀少果といわれる国内産銀寄栗の鬼皮と渋皮とをひと粒ひと粒丁寧に手剥きし、バニラの香り高い糖蜜にじっくりと漬け込み、糖衣をからめて仕上げました」とあった。

 文/大森 周
写真/太田耕治

神戸風月堂

神戸市中央区元町通3−3−10
TEL 078(321)5555