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銘菓の装い

鶏卵饅頭

ひとつはしずくのように

イメージ

 四国の名山石鎚山の眺めが最も美しいのは、今治市の近郊からではないかと思っている。以前、予讃線で松山へ向かう途中、今治の少し手前で、黄金色の麦畑の向こうに高々と姿を現した石鎚山の偉容を目にしたときの感動は、忘れられない。
 今治は昔も今も「四国の大阪」といわれるほど商業の栄えてきた町と聞くが、江戸時代頃までは、港に出入りする大小の帆船の上からも、あの崇高な石鎚山が見えていたのではないだろうか。
 その今治市に、一笑堂が江戸時代から作り続ける銘菓「鶏卵饅頭」がある。
 一笑堂の創業は寛政2年(1790)、現在の当主門脇貞夫さんが7代目である。
 「鶏卵饅頭」は、今治の城と城下町を築いた藤堂高虎の時代に、高虎公も好んだ城下で評判の「大手饅頭」を、のちに一笑堂が改良したものだという。厳選した国産小豆のこし餡を用いている点もさることながら、生地を、水を使わずに卵だけで練るのが最大の特色である。「鶏卵饅頭」の名はこの生地からきていて、形は直径2センチほどの真ん丸に近い小型の饅頭だ。
 「鶏卵饅頭」の包装紙は、実におしゃれだ。濃紺の地色に大きく抜いた、しずくの形のなかに、鶏の横顔のあるマークが、ちょっとレトロっぽくておもしろい。商品名を中心とした文字も、マークと色を合わせて、すっきりとしている。
 包装紙をはずすと、卵で練った「鶏卵饅頭」の生地のような色の箱が出てきた。上に商品名、下にマークは包装紙の正面と同じだが、こちらはマークを小さくして、商品名を強調する配慮をみせている。現在のこのパッケージは、一笑堂8代目を継ぐ若い門脇忠常さんらが、2年前に一新したものだとうかがった。
 箱の中身は、かわいらしい饅頭がぎっしり。ひとつ食べてみたが、あっさりした味の皮と餡は口のなかで溶けて、どこへいってしまったのかわからない。どんな上品な美人が食べていても似合いそうな、しずくのようなお菓子であった。

 文/大森 周
写真/太田耕治

一笑堂

愛媛県今治市中浜町1の1の21
TEL 0898(22)0295