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銘菓の装い

井籠

 せいろう(せいろ)と聞いてまず思い浮かぶのは、シューマイ、肉まんなどの中華料理や、野菜を蒸す際に使う、調理器具の「蒸籠」でしょうか。ここでいう「井籠」は、江戸〜明治時代の初め頃にかけて、菓子屋が饅頭や生菓子を届ける際に使った容器のことです。「外居(行器)」とも呼ばれます。

 実用品ですので、使ううちに傷んだり、装飾が剥げたりもしたのでしょう。その度合いによって使い分けをしたことがわかる、面白い史料があります。享保十三年(一七二八)、虎屋が関白の近衛家久邸にお月見用の菓子を届けた際の記録ですが、家久あてに納めるものは綺麗な井籠に入れ、取次ぎの部署あては特にこだわらない旨が記されています。想像にはなりますが、前者は家久用として、井籠ごと行事の場に出され、後者は別の容器に移し替えるなりして菓子のみ使われたのではないでしょうか。華やかな場で直接高貴な方の目に触れるともなれば、気を遣ったのも当然です。

 さて、次は少し珍しい井籠をご紹介しましょう。とにかく小さく、手のひらに納まるサイズです。中に饅頭の模型が入っているので、店内の飾り物として使われたか、お得意様へ記念品として贈られた可能性もあるでしょうか。第六回「看板」で、江戸の菓子屋では井籠形の看板が使われたことに触れましたが、同様に、「店の顔」という認識があったことがうかがえます。






 こうして見ると井籠は、単純に運搬容器とは呼べないぐらい、様々な役割を果たしていたことがわかります。その事実も含め、大切に伝え残していきたいものです。

河上可央理(虎屋文庫 研究主事)

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