菓子屋のAnother Work(21) No.208

菓子資料室 虎屋文庫

 虎屋文庫は、和菓子文化の伝承と創造の一翼を担うことを目的に昭和48年(1973)、株式会社虎屋の一部署として創設されました。現在、7名のスタッフが在籍しています。

 史料群は、虎屋関係と、菓子全般に大別されます。江戸時代の虎屋の御所御用記録から、菓子を運搬する井籠、木型や菓子見本帳、明治〜昭和にかけての古写真、現代の経営資料まで多岐にわたり、菓子が描かれた錦絵をはじめ、菓子や食文化関連の文献も多数所蔵しています。
 これらの史料をもとに調査研究し、さまざまな形で情報発信に努めています。たとえば、和菓子の魅力を紹介する企画展を、創設以来、79回開催してきました。手作りの菓子を出すことが特徴で、木型、子ども、東西比較ほか、毎回、趣向の異なるテーマとなるよう心掛けています。
 また、和菓子関連の研究論文や史料翻刻を中心とした学術雑誌『和菓子』を年1回発行(3月刊行の27号の特集は「近世菓子見本帳」)。ホームページでは、所蔵資料紹介やコラム「歴史上の人物と和菓子」の連載なども行っており、和菓子の「面白さ」や「驚き」、「おいしさ」を広くお伝えしていきたいと思っています。今後も菓子専門の資料室として活動にご注目いただければ幸いです。

(株式会社虎屋 虎屋文庫 所加奈代)

イラスト: 株式会社虎屋 赤坂文化事業課 小谷由香里

菓子資料室 虎屋文庫

住所:東京都港区赤坂4-9-9赤坂MKビル2階
TEL : 03(3408)2402  FAX : 03(3408)4561
受付時間 9:00〜17:30(土・日・祝日は休み)
E-mail:bunko@toraya-group.co.jp
ホームページ
https://www.toraya-group.co.jp/toraya/bunko/
史料・資料室は非公開ですが、和菓子に関するお問い合わせに、 電話・メール等でお応えしています。
菓子資料室 虎屋文庫

菓子屋のAnother Work(22) No.211

白玉屋榮壽

 白玉屋榮壽は弘化元年(1844)に奈良・三輪山の山裾に創業、およそ180年にわたり和菓子屋を営んで参りました。三輪山は山そのものがご神体で、中腹に日本最古の神社・大神(おおみわ)神社が鎮座します。当店は、そのお社の大鳥居の脇で、ただ一つの商品、「名物みむろ」を作り続けてきました。
 名物みむろは、漉し餡に少量の粒餡を合わせた「鹿の子餡」をはさんだ最中で、奈良の名産である大和大納言小豆を使い、昔ながらの製法で作っております。この小豆は、皮が薄く、しかも弾力があって割れにくく、風味が豊かなのです。ところが、平成に入った頃から作付けが減り続けて、漉し餡の小豆は北海道産が中心に。さらに近年は、粒餡に使う小豆も奈良県産の確保が難しくなってきました。
 そこで2018年の11月1日、小豆の収穫期に合わせて、全国紙4紙の奈良県版に広告を出しました。
「小豆買います。貴方がお作りになられた小豆をお譲りいただけませんか」
 その日からしばらくは、電話が鳴りやみませんでした。「JAの規格外の小豆でもいいですか」「少量でも買うてくれますか」。もちろんです、と答えると、農家さんが次々に小豆を持って来店されました。そして、「来年はもっとようけ作るわ」と笑顔で帰られるのです。さらには、「自分の育てた小豆が『名物みむろ』になるのが誇らしい」といったお声もたくさんいただきました。
 この反響を受けて、翌年は作付け期の6月1日に再び広告を出しました。今度の文面は「小豆をお作りいただけませんか。種小豆は提供させていただきます」としました。以来、毎年6月と11月の広告を続け、約30軒の農家さんとお付き合いをしています。
 昨年は広告をきっかけに小豆栽培を始め、納品された、デイサービス施設に通う高齢者の方々から、「達成感を感じた。社会参加できて嬉しい」という感想が届いて感激しました。また、なんと当社の社員が自発的にローテーションを組んで小豆を作り始めました。
 原料調達のための小さな広告は、多くの余得も運んでくれているようです。

石河敏正(白玉屋榮壽社長)

白玉屋榮壽

住所:奈良県桜井市三輪 497
営業:8時〜19時 (月曜・第3 火曜休) 
TEL:0744 (43) 3668
ホームページ
https://www.begin.or.jp/~mimuro/
白玉屋榮壽

菓子屋のAnother Work(23) No.212

シュガーロード
南蛮人来朝図
  南蛮人来朝之図
(長崎歴史文化博物館所蔵)
 

 昨年夏、「砂糖文化を広めた長崎街道〜シュガーロード〜」が、日本遺産に認定されました。日本遺産は、文化庁が日本各地の有形・無形の文化財群を語るストーリーを認定し、それを発信することで地域を活性化しようという事業です「。シュガーロード」も、長崎街道の歴史や風景とともに、400年以上もの時をかけて発展してきた砂糖や菓子の文化に触れられるというストーリーが提示されました。

 日本における砂糖の記述は、奈良時代から見られますが、大量の砂糖が輸入され、一般の人の口にも入るようになったのは江戸時代のこと。宝暦年(1759)には今の金額で億円相当の砂糖が輸入されたと記録されています。
 鎖国のため唯一の貿易窓口であった長崎の出島に荷揚げされた砂糖は、多くが海路で大坂へ、そこからさらに京、江戸へと運ばれました。
 一方、陸路も、海外からもたらされた多彩な物産を運ぶため、長崎と豊前国小倉(現在の北九州市小倉北区)を結ぶ長崎街道が整備されました。街道沿いの佐賀藩と福岡藩には、長崎港の警固にあたる代わりに輸入品を買い入れる特権が与えられたため、砂糖が入手しやすく、また菓子の製法なども伝わり、独特の食文化が花開いていきました。これが、長崎街道が別名「シュガーロード」と呼ばれる所以です。
 長崎の「カステラ」や佐賀の「丸ぼうろ」、福岡の「鶏卵素麺」などがスペインやポルトガルにルーツをもつ南蛮菓子であることは、ご存じのとおり。さらに、諫早の「おこし」や小城の「羊羹」、北九州の「栗饅頭」なども、豊富に手に入る砂糖があってこそ生まれた菓子です。
 なお、日本遺産を構成する文化財群の中には、長崎街道の面影が残る町並みや長崎の唐寺・興福寺などの史跡に加え、村岡総本舗の本店および砂糖貯蔵庫や製造道具を展覧する羊羹資料館、丸芳露本舗北島の菓子製法文書も挙げられています。
 北部九州に点在する個性あふれる菓子を街道という線で結び、さらに歴史や文化へと関心を広げていくと、銘菓を巡る旅はいよいよ楽しくなりそうです。

*日本遺産ポータルサイト https://japan-heritage.bunka.go.jp/

菓子屋のAnother Work(24) No.215

菓子屋のSDGs

SDGs(持続可能な開発目標)とは

 SDGs(Sustainable Development Goals)は、2030年までに様々な問題を世界中が協力して解決していこうと国連が決めた17の目標です。日本でも大きな広がりを見せていますが、全国銘菓の加盟店も多彩な取り組みを行っています。
 例えば、自然界で分解されないため生態系に影響を及ぼすなどの問題を起こしているプラスティックは菓子の容器や包装でも使われています。これを紙やバイオプラスティックに切り替える試みが始まっています。

【環境にやさしい包装資材に】

「チョコレート5枚入」(※写真)や「ホワイトチョコレート5枚入」の外箱を紙素材に変更。ビニール袋や通販品用緩衝材をバイオマス資材に替えた。<六花亭>

箱入り・缶入り「鳩サブレー」の仕切りトレーを、サトウキビのしぼりカスを原料とした紙素材のものに変更。袋入り「鳩サブレー」の袋も紙素材に変更した。<豊島屋>

新商品「むかし吉備団子と日本茶セット」のパッケージにはFSC認証の紙、印刷にはバイオマスインクを使用。<廣榮堂>

ビニール袋をバイオマス25%以上のものに変更し、無償提供。
<わかさいも本舗>

手提げ袋をプラスティック素材から紙素材に変更。デザインや強度は変わっていない。<とらや>

 豊かで幸せな未来を次世代に渡していくために、プラスティックや食品ロスの削減だけでなく、皆でそれぞれができる努力や工夫をしていきましょう。

【フードロスを減らす】

棹菓子の切り落としを冷凍し、数か月に一度、販売。切り落としの廃棄はほぼゼロに。
<乃し梅本舗 佐藤屋>

「一六タルト」の包装素材を変更して賞味期限を1〜2週間伸ばすことで、食品ロスを削減。<一六本舗>

カステラの切れ端を2度焼きしたお菓子「フクサヤビスコチョ」を開発。一部店舗で販売。

【省エネのアイデア&リサイクル】

強い陽射しを避けるために年6回、作り替えている日よけ幕を、エコバッグに。今年で12年目になる取り組み。<かるかん元祖 明石屋>

【国産材を使う】

新店舗の什器に県内産「西川材」の間伐材を使用。使いながら乾燥させ、半年後に交換。返した木材は建材などになる。<龜屋>

菓子屋のAnother Work(25) No.216

菓子屋の広報

 全国銘菓の加盟店の中には、和菓子の歴史や文化を紹介する書籍や広報誌を出したり、地域と結びついて詩集や絵本などを出版する店が数多くあります。また近年は、店のホームページで菓子がつなげる様々なモノ・コト・ヒトを紹介するサイトが増えています。
 現在、入手可能な書籍・冊子、及びホームページサイトをご紹介しましょう。

『ようかん』
虎屋文庫著、新潮社、
2019年発行、
2420円(税込)

『和菓子を 愛した人たち』
虎屋文庫編著、
山川出版社、
2017年発行、
1980円(税込)

『和菓子』
最新号は29号

■ とらや

株式会社 虎屋の菓子資料室「虎屋文庫」が、1994年から年1回、毎春に研究論文を中心とした機関誌『和菓子』を発行している。900円または1000円(税込・送料別)。また、書籍として『和菓子を愛した人たち』、『ようかん』などがある。ホームページにも和菓子にまつわるコラムなどを掲載。『和菓子』の入手は電話、FAX、ホームページの問合せフォームから。
☎ 03(3408)2402/FAX 03(3408)4561/ https://www.toraya-group.co.jp/

『村岡総本舗
羊羹資料館案内』

広報誌
『いとをかし』

■ 村岡総本舗

本店に隣接する羊羹資料館の創立30周年を記念し、2014年に『村岡総本舗羊羹資料館案内』を発刊、羊羹にまつわる109話を収録している。主著者は、九州の菓子文化に精通する当主の村岡安廣氏。入手は電話またはFAXで。1320円(税込)。
☎ 0952(37)3173/
FAX 0952(72)2132
http://www.m-youkansiryoukan.jp/book_form.htm

■ 両口屋是清

2008年〜2019年に、和菓子や日本の文化を紹介する広報誌「いとをかし」を発刊。現在は休刊中だが、14号〜32号のバックナンバーを無償頒布している。入手は「季刊誌請求フォーム」またはフリーダイヤルで。無料。
https://ryoguchiya-korekiyo.co.jp/magazines/
フリーダイヤル 0120‐052062

『サイロ』
751号
(2022年7月1日発行)

『こどもの夢の青い窓』
600号
(2022年7月10日発行)

■ 六花亭

昭和35年(1960)、『青い窓』(柏屋発行)に感銘を受けた創業者が「十勝の子どもたちにもこんな詩誌があったら…」と地元教師に呼び掛け、児童詩誌『サイロ』を創刊。以来、半世紀を超え十勝管内の小中学生の詩を紹介。ホームページでも一部閲覧可。入手は「サイロの会」事務局へ。
☎ 0155(24)6655/FAX 0155(24)6656/
Mail:sairo@rokkatei.co.jp/
http://www.oda-kikin.com/sairo.html

■ 柏屋

昭和33年(1958)年5月に創刊した児童詩誌『こどもの夢の青い窓』が、64年目となる今年7月に600号を数えた。毎号、福島県を中心に全国から投稿された子どもたちの詩が紹介されている。入手は「こどもの夢の青い窓」オフィシャルサイトへ。年会費2000円で年6回、奇数月に届く。
https://www.aoimado.jp/

『伊勢だより』。
商品の折箱に封入されている

■ 赤福

折箱入りの赤福餅に、日替わりのしおり『伊勢だより』が入っている。徳力富吉郎氏による版画で伊勢神宮の祭や四季折々の花、風景などが描かれ、裏面は内容にちなんだ店主からの手紙となっている。ホームページにも当日版を掲載。
https://www.akafuku.co.jp/ise/tayori/

絵本
『7394』

■ 五勝手屋本舗

創業150周年を記念し、2022年に地元に語り伝えられてきた民話を絵本にした『7394』を発刊。江差に繫栄をもたらしたニシン漁にまつわる伝説がダイナミックに展開する文章とイラストで描かれている。入手は電話またはオンラインストアへ。1650円(税込・送料別)。
☎ 0139(52)0022/ https://gokatteya.co.jp/

各店のホームページで楽しめます

 廣榮堂「桃太郎伝説」
https://koeido.co.jp/story/momotaro/
鬼退治で知られる「桃太郎」の昔話の由縁ともされる、
岡山の2つの古社に残る伝説を紹介。歴史好きも必見。

 鶴屋𠮷信「京菓子寸話」
https://www.tsuruyayoshinobu.jp/yokimono/story
丹波大納言小豆、道明寺、柚子、寒天、栗、吉野葛、
笹など、京菓子に欠かせない材料を由来や製法をまじえて紹介。


https://www.castella.co.jp/
カステラの原型となった16世紀のスペイン・ポルトガルに生まれた菓子の話をはじめ、カステラの歴史と文化を紹介。

 石村萬盛堂「萬盛堂歳時記」
https://www.ishimura.co.jp/saijiki/
博多にまつわる様々な話を紹介。「黒田武士」「山笠のはじまり」「正月準備」など多彩な切り口で、町の魅力を伝える。

 本家尾張屋「日々のこと」
https://honke-owariya.co.jp/stories/
京都のコーヒー店や製粉屋さん、お茶の老舗、
料理人など、店と「繋がり」がある人々のストーリー。

 かるかん元祖 明石屋「軽羹百話」
https://www.akashiya.co.jp/stories/
鹿児島名産の菓子「かるかん」について、歴史や文化、
材料などに関する話を読みやすく解説。